広報6月号 地域おこし協力隊トークセッション企画

おおたまいどばた会議 with 地域おこし協力隊

「大玉村が映し出す姿」 担当:小川               
                                  

広報の紙面に載せきることができなかった部分を含めた拡大版!

よりテーマを掘り下げた内容となっています。

全5回を通して移住者を中心に自身の活動や大玉村について対談していきます。その中で大玉村ってこんな一面があったのか、こんな活動や面白いことがあるのか、新しい発見をみなさんにお届け出来れば幸いです。


● 対談者

渡辺崇徳さん/元大玉村地域おこし協力隊
1989年三重県生まれ
2011年大学卒業後建築内装設計に従事
2019年大玉村地域おこし協力隊
2022年卒隊後ゲンゴロウスタジオを設立
建築やプロダクト等のデザインに従事


● 簡単な内容

地域おこし協力隊として多角的に大玉村を見てきた渡辺さんと現・大玉村地域おこし協力隊の小川が「大玉村が映し出す姿」をテーマに対談をしました。
「地域でたのしく過ごすため」には「自分はここにいてもいいんだ」というような帰属意識が大事な考え方になります。
そもそも地域活性化はなぜ必要なのか、誰のためなのか。
私たちが普段何気なく使っている「地域」という言葉をもう一度考えることから見えてくるこれからの大玉村に必要なモノに迫っていきます。

● 目次


―渡辺さんが初めて来た頃の大玉村―


地域おこし協力隊・小川晴喜:まずは大玉村に初めてきたのはいつですか?

元大玉村地域おこし協力隊・渡辺崇徳さん(以下渡辺さん):大玉村に初めてきたのは2016年です。

小川:震災の5年後に来たんですね。その頃だと震災の面影はありましたか?

渡辺さん:震災の面影はあまり感じられませんでしたが、近所の農地に除染土が置かれていたり、除染作業の看板が立っているのはよく見ました。

小川:私が来た2021年にはもうそのような景色はなくなっていたので新鮮な話です。

渡辺さん:基本的に震災の影響は、移住者の気付きにくいものだと思います。



―大玉村に来た理由―



小川:大玉村にきたきっかけはなんでしたか?

渡辺さん:きっかけは歓藍社の活動(藍染め)です。その時、歓藍社では、藍染めの原料となる藍の葉の栽培に取り組み始めたところでした。その当時から、僕は農業に興味を持っていたので、月に一回、当時住んでいた京都から通ってみることにしました。

小川:京都からだとかなり遠いですが、通っていたんですね。そこから地域おこし協力隊になったのはどういった経緯でしょうか?

渡辺さん:村で地域おこし協力隊を募集するとなったときに、勧藍社の活動を行っていたこともあって、役場の方からお声がけ頂きました。これも何かのきっかけと思い、地域おこし協力隊に応募しました。


―大玉村のイメージ―



小川:大玉村についてお話しを伺います。大玉村というとちょうどいい田舎と言われていたり、そんなに都市部から遠くなく、開けているので山間部のような閉鎖的な風景ではない印象を私は思いました。渡辺さんはどんなイメージを当時持っていましたか?

渡辺さん:田舎の風景というのは、そこまで地域差は出にくいように思っています。ただ、広くなだらかに緑地の裾野が続いていく風景の中で、大玉村ほど美しい風景は珍しいと思いました。

小川:渡辺さんは関西出身で関西と東北の田舎の違いって感じますか?

渡辺さん:あまり感じませんね。大玉村にはプラント5がある分、僕の実家よりも都会かもしれません(笑)。ちなみに、僕の実家は三重のいなべ市というところで、名古屋から30分くらいのところにあります。

小川:そういう点では大玉村と立ち位置は近いですね。郡山まで近いという点で。

渡辺さん:そうですね。ただ、モノは大玉村のほうが揃いますね。

小川:大玉村に実際に来て、イメージの変化はないですよね。(笑)

渡辺さん:ある意味予想通りでしたね(笑)。ただ、あるとしたら、思ったより暑いことでしょうか。昔からお住まいの方も感じていると思いますが、最近明らかに暑いですよね。温暖化ですかね。

小川:夏は暑くて、冬は寒いといった感じですよね。

渡辺さん:冬が寒いのは予想通りですが(笑)。



―地域おこし協力隊の活動についてー



小川:地域おこし協力隊としての活動はどうでした?

渡辺さん:まず、一年目は、前職の都合で京都に行く必要があったので、村と往復しながら、村内の空き家調査していました。空き家に住みたい人がいれば紹介したりもしていました。結果的に3軒の空き家を住み手につなげることができましたが、空き家になっているのには、それなり理由があるもので、なかなかすんなりとは行かない事が多かったです。

小川:空き家問題は他の市町村と比べて大玉村はまだいいですが、今後さらに問題になりますよね。

渡辺さん:また、二年目からはコロナ禍で村外に出にくくなってしまったので、村内で出来る事を考えていました。もともと農業に興味があったので、自分で米作りに取り組んだり、色々な農家さんのところに伺い、お手伝いもさせていただいたりもしました。

やはり農家さんの仕事は大変ですね。日々の仕事の内容もそうですし、生業にしようとすると相当大変であることを痛感しました。

小川:私も畑を地域の方と始めました。その中で、農家さんとお話しする機会があるのですが、私が地域おこし協力隊だと説明すると渡辺さんの話になります。渡辺さんが手伝いに来てくれたんだなど。どれくらい手伝いに行かれていたんですか?

渡辺さん:週のうち1~3日くらいは手伝いに行っていました。手伝いに行かないときは、自分の住んでいる空き家の改修などをしていました。


―大玉村は移住者が多いが、必要な着眼点とは―



小川:大玉村についてお話ししよう思います。大玉村は移住者の多い地域で現在人口は減少していない地域になっています。その要因はどのように考えていますか?

渡辺さん:恐らく大玉村は立地が良く、他の市町村より選ばれやすいという事はあると思います。また土地の値段も大きな要因だと言われています。ただ、日本の人口が減少するのは確実ですから、いつまでもその状況が続くとは思えません。人口が減った結果として、土地の需要が下がり値段が下がれば、いずれ大玉村よりも安い地域が出てくることになります。仮に、大玉村が選ばれる主な理由が土地の値段だとすると、そこに取って代わられる事になります。土地の値段の他に、ここで暮らす意味がないといけないですね。

小川:渡辺さんは大玉村にきて、温泉の学校(講座や読書会)だったりクラブタイムを行っていたりしますが、それは地域でたのしく過ごすためにやっていることだと認識しています。そういう活動が増えていくと立地や値段だけでない地域の価値ができますよね。

渡辺さん:そうですね。

小川:コロナ禍に移住してきたのもありますが、私が来てからあまり村民が主体で活動しているのをみていませんでした。今は祭りとか、若連の活動が徐々に始まっているのを聞きます。しかし、移住してきた人にとってはその輪には入りにくいのも現状です。

渡辺さん:そうですね、既にいらっしゃる方との接点がないと入りにくいですね。ただ、入りたいと思っている人がどれくらいいるのかも、わからないところではありますが。しかし、新しい人が入らなければ廃れていってしまうのは間違いないと思います。

小川:伝統が廃れていってしまうのは悲しいことです。

渡辺さん:伝統というのは、ただ惰性で続いていたりすることもありますが、続いているという事は、そこにちゃんと意味があるということでもあります。例えば、そういう場所があることで、その地域に帰属意識が持てたりするのも確かです。地域の活動を共に行うことが、地域に安定をもたらす結果に繋がっていることは少なくないと思います。

小川:そういうのがあることで自分がここにいてもいいと思えるのは大事な着眼点です。

渡辺さん:村で活躍されている方を見ていると、「自分はここにいてもいいんだ」というような、地域や共同体への帰属意識が非常に重要だと感じるようになりました。それは、個人の活力につながりますし、地域や共同体を良くしていく原動力になると思います。

消防や地域の祭りというのは、その点でも非常に重要な意義を果たしていると思います。付け加えるならば、「多様化」がキーワードとなる現代ですから、より様々な形で、みんながそれぞれに帰属できる共同体や集まりが出てくると良いと思っています。


―地域活動についてー



小川:現在の大玉村の地域活動については?

渡辺さん:もう少し村内で活動している人が知りたいですね。

小川:コロナ禍で止まってしまった活動もあると思いますが、私達が活動している範囲内では知らないだけで、本当はもっといそうです。

渡辺さん:バイクのツーリング仲間や学校の同級生のように、コミュニティ自体はあるとは思いますが、移住者には接点を持つのが難しいですね。

小川:元からある組織の活動も新しいことをしたり、変化があるといいですね。

渡辺さん:もちろん、あらゆるコミュニティが、第三者を巻き込みたいとは思っていないとは思いますが、もしそういった事がしたくて出来ないのであれば、既に活動されている方々の存在は参考になると思います。

最近知り合った方だとナカホームがありますね。

小川:ナカホームは今回のトークセッションで遠藤さんが対談します。新しい動きも出てきていますね。

渡辺さん:ただ、何かを始める時に、地方創生とか難しいことは考えなくて良いと思っています。変に気負わず、自分の目と手が届く範囲を楽しい場所しようとするだけで十分だと思います。楽しく続けられるのが一番です。

小川:そういった活動を繰り返していくことが結果として地域のためになると私は思います。

大玉村にも人材はいます。面白いことを起こせる可能性は大きい地域だと思います。

渡辺さん:キッカケがあれば何か起こるかもしれませんね。何かやりたいと考えていて、行動に移せていない人にアプローチできると良いなと思っています。僕も別に得意というわけではないですが、少しくらいなら手伝えることはあると思います。


―地域との関わりかたー



小川:地域おこし協力隊として地域と関わってきましたが、その中で大切なことはありますか?

渡辺さん:まず地域と地域行政は別の存在であるという認識は重要だと思います。私たちの生活は、行政サービスのみだけでできているわけではありません。そこには当然民間のサービスも存在しています。私たちの生活と村の単位は必ずしも一致しません。ですので、ある地域の問題を、行政が解するのが適切とは限りません。公平性を求められる行政には得意不得意がありますし、地域の問題を一番よく理解しているのは、やはりその地域の人間です。

小川:渡辺さんの企画している「温泉の学校」でも話題になりましたが、政治(行政)と社会を切り離して考えるということですね。

渡辺さん:そうですね、地域といっても行政単位で考えるのではなくて、自分が住んでいるあたりだけを考えてもいいと思います。例えば、僕であれば、買い物は主に本宮に行っているので、僕のとらえるべき地域は、自分の住む集落と本宮の一部ということになります。

小川:それはつまり大玉村の地域おこしと言ったときに、大玉村というくくりで見ていたら視野が狭くなってしまうということでしょうか。生活の一つをとっても、網目状に広がっているもので大玉村という行政単位で引き取ってしまうことが本当に適切だとは限らないですね。

渡辺さん:地域おこし協力隊の場合、役場にいるので、視点がどうしても役場に近くなってしまいがちですが、実際にそこに住んでいる人の視点で物事を考えることで見えてくることもあると思います。


―そもそも地域とはー



渡辺さん:そもそも地域という言葉自体が曖昧で、取り扱いに注意が必要だと感じています。何か行動する時に、とりあえず「地域のため」と言えば許される風潮があるように感じます。「地域のため」と言って反対する人はいないと思いますが、実際の所、「地域のため」と一言で言っても、何が地域のためになるのか、そもそも地域とは具体的に誰の事を指しているのか、という議論はされないことが多いです。

小川:地域というものが目に見える定義があったほうがいいのでしょうか。概念が固まったものになれば、みんなが寄りやすくなれるのでしょうか。

渡辺さん:具体的な定義があって、初めて議論が出来るようになることは多いです。地域への貢献を考えるのならば、具体的な定義と議論は避けて通れないと思います。

景観の話を例にして考えてみましょう。景観を守る事自体に反対する人は少ないと思いますが、なぜ景観を良くする必要があるのか、そしてそれは誰のためになるのか、どれくらいのコストがかかるのかという事まで議論されることはあまりありません。

欧米の場合、景観を考えるうえで、土地や住宅つまり不動産の価格が重要の指標となってきます。何故なら、欧米では不動産は買った時より高く売ろうと考える文化があるからです。そのため地域の住民は、不動産の価格を維持もしくは向上させる一環として、地域の景観をよくしようと努めることになります。

なぜという理由が共有される事、そして具体的な指標がある事が、各住民の自発的で具体的な行動に繋がっています。そして何より、動くべき人が誰であるかも明確に定まることになります。そもそも、その考え方を受け入れられない人は、その地域では暮らさないので、結果として地域が一つの目標に向かって動くことになります。曖昧な議論ではここまでの活動は難しいと思います。

小川:つまり、理由はともあれ景観を良くしようとしている集まりが一つの地域となるということですね。何か目的があるとそこに向かって懸命に行動をする集まりを地域と呼んでもよさそうです。


―地域の価値をあげることー



渡辺さん:地域というものが、住人がそれぞれに所有している土地が集まって出来ている以上、住んでいる一人一人が動かないと解決しない問題は多いと思います。行政に言われて、住民が仕方なくやっていることが、地域の魅力になることは難しいと思います。

 現在、大玉村は多くの移住者の方に選ばれる地域となっていますが、先にも述べた通り、その主要因が土地の価格であるなら、いずれはもっと安い地域にとって代わられる事になってしまいます。例えば、自分の住んでいる家を子供たちにも引き継いで欲しいと具体的に考えることで、地域がどうあって欲しいかが具体的に見えてくるのではないかと思っています。そして自分や家族、そして近所の人たちだけでも取り組めることが見えやすくなるように思います。

小川:大人になっても大玉村に住みたいと今いる子供たちが思える活動はとても大事ですね。それは土地の値段だけではない価値になります。地域の価値をあげることが将来の大玉村の価値につながるのでしょうか。

渡辺さん:地域の価値という言葉は曖昧なので、何をもって価値とするのかという、ものさしがないと話が始まりません。

小川:ものさしをつくるということが地域が活性化するための第一歩になるのでしょうか。

渡辺さん:まず何を以てして活性化と呼ぶのか、というものさしが必要ですし、その度合いを測るものさしも必要になってきます。なんのためにどういう指標で活動するのかが大事になってきます。それを「地域のため」という一言でくくってしまうのは、あまりに曖昧すぎるのです。

例えば、人口の増減で一喜一憂していても意味はなくて、どういった視点に立って物事を見ることが大切です。ちょっと考えてみれば、人が増えて困ることもあるし、減って嬉しい事もある事がわかるはずです。


―なんのための地域活性化かー



渡辺さん:なんのための地域活性化なのか。活性化しなくてもいいじゃないかという問いに対してきちんと答えられるか、それに答えられない間は、地域活性化は進まないと思います。

小川:地域活性化という言葉自体もまだまだ曖昧なものだと感じました。簡単そうに思えてなかなか難しい問ですね。

実際、ものさしを作ることができたら今後の大玉村の今後の姿みたいなものが明確化していくのでしょうか。

渡辺さん:ものさしは重要です。あと、村という単位で考えなくていいと思います。集落とかでも。

小川:もう少しミニマムな単位がいいんですね。

渡辺さん:村だと大きすぎて、1人ではハンドルがききません。あくまでそれは行政単位なので、もっと身近な生活の場から考えた方が良いように思います。

また景観の話になりますが、村全体の景観を考えると漠然として取り組めそうにないですが、例えば、この窓から見える田んぼの風景とかが残っていてほしいなと考えると、誰と協力すれば良いのかが何となくわかってきます。村全体の田んぼは一人の手には負えませんが、目の前の田んぼを残す事であれば、自分でも何かできるような気がしませんか?そして、それは村という単位を持ち出すまでもないことだと思います。

小川:全体を考える必要はなくて、小さな単位で物事を考えて行動していく。そういった活動の集積が巡り廻って地域の魅力につながっていきますね。身近なところに地域で楽しく生きていくためのヒント(原動力)が転がっていそうです。


対談を終えて


第一回目は元地域おこし協力隊の渡辺さんをお呼びしました。渡辺さんとは一昨年度に地域おこし協力隊としてご一緒させていただいており、私が何か質問をすると適格な答えを頂けるので、頼りになる存在です。

「大玉村が映し出す姿」という漠然としたテーマを5回の対談を行っていく上で大きな指針を見せていくのに、第一回目は客観的視点で物事を見れる渡辺さんが適任だと考えました。

対談の中でキーワードになったのは「地域とは何か」「ミニマムな単位で考える」です。

「地域とは何か」この問はすぐに答えを言える人はどれくらいいるでしょうか。今回は景観の例があげられていましたが、ここでは「みなさん、一人ひとりの生活する上で関係する範囲」を地域と呼ぶことにします。
その地域がよりよくなるためにできることをやってみるのが「地域でたのしく過ごすために」できる最善の行動です。

「ミニマムな単位で考える」ことはここに通じています。大玉村というのはあくまでも行政単位であって、私たちの私生活を考える時は大きすぎる単位だということです。もちろん「大玉村」を良くしたいという考えが悪いわけではありません。ただ、私たちが大玉村のために何かしたいと思うのであれば、もっとミニマムな単位で活動することが近道にもなるということを覚えていてください。

実際、渡辺さんと対談を通してまだまだこのテーマが私の中で曖昧な部分が多い事を痛感しました。今回の反省も踏まえて、2回目以降の対談に活かしていきます。

「地域」とは何か、なぜ地域活性化が大事なのか、この答えを掘り下げていくことが「大玉村が映し出す姿」にたどり着く道だと考えています。
5回目が終わった時に皆さんに何かを届けられるように努めていきます。